第6章 4月12日 達郎の店
音楽を消した店内に食器のガチャガチャした音が響く。
「いや、こっちこそ勝手にごめん。 でも、ちょっと嬉しかったのもあるかな」
「…………?」
「小夜ちゃんって滅多に他人に頼らないでしょ? 僕含めて」
「そう?」
「うん。 だから今の彼氏はそうじゃないのかなって」
「それ、嬉しいの?」
「だってそういう人見つけたってのは悪い事じゃない」
「……………」
優しい人。
彼の本心なんだろう。
温かくて、喉の奥がぎゅっと痛む。
「わ……たしは」
けれど、今更何を言えばいいのだろう。
言葉にするには月日が経ちすぎてしまって、口を閉ざす事に慣れ過ぎて。
「ん?」
水の流れる音に混ざり、達郎が穏やかに先を促してくれる。
私には伝える言葉なんてもう思い付かない。
黙りこくった小夜子を不審に思った達郎が顔を上げかける。
その瞬間、やや性急に入り口が開けられて、外の喧騒が静まり返っていた店内に入り込んできた。
「高」
先程の、酔っていた時よりも小夜子の顔が青くなった。
間違えた。
スマホ押し間違えたか、見間違えたのかはともかく。
そこに立っていたのは、寄りによって一番会いたくない高階怜治だった。