第6章 4月12日 達郎の店
「彼?」
訝しげな様子の達郎を誤魔化すように小夜子がごそごそとバッグの中を探る。
「話してなかったっけ? 最近」
「…………」
「彼氏に迎えに来てもらうから」
「分かった……けど、それまではここで休む事」
そんな達郎の発言のせいで、会計のためのバッグの中のパスケースを掴んでいた小夜子はスマホを取り出す羽目となった。
彼女の頭が高速回転する。
来てくれそうな人。
正直、そんな人は居ないけど。
ああ、そう。
一希とか。 苗字は、なんだっけ?
ええと、高……高木? 高藤?
アドレスに目当てらしい文字を見付けると達郎がひょいとそれを覗き込んできた。
「その子? 道は分かりづらいから僕が説明するよ」
そしてまたもや適当にメッセージを送って誤魔化す予定が電話をする羽目になる。
もう酔いなんてどこへやらだ。