第6章 4月12日 達郎の店
「ところで何飲む?」
「駆け付けのテキーラ……」
小夜子の言葉に何だそれ、と軽く噴く達郎。
元々の端正な顔立ちはともかく、30代後半になっても若い時と変わらず柔らかい雰囲気で、ほっと人を安心させる。
小夜子はそんな彼に幼少の頃から懐いていた。
「て、なあに、頼んだのと違う」
小夜子の目の前に差し出されたのはロンググラスの赤い液体。
炭酸が入ってるのか、小さな気泡が下から上へと立ち上っている。
「こんな時間から深酒なんかさせる訳にいかないからね」
「……もう。 私だってもう、達ちゃんと歳変わらないんだから」
「10も違うし。 酔った小夜ちゃん目当ての客あしらうのも面倒だし。 第一心配してるんだよ、これでも。 何かあった?」
相変わらず達郎は鋭い。
やっぱり来なきゃ良かったかな。
ほんの少しだけ小夜子は後悔し始める。
「達っちゃんのそういうとこ、良くないよ」