第5章 4月5日とそれ以前 社内、ある居酒屋
「そういうのって虚しくない?」
「虚しい?」
「もし少し気楽に考えたら? いっちゃなんだけどそんなのは本質性欲な訳だし」
「何だそれ。 つまんねえな。 どっかの学者かよ」
「ホントの話だと思うけど」
「あんま男馬鹿にすんな。 そんな気楽なもんじゃない」
声を荒らげて話している訳では無かったが、明らかに二人の間には不穏な空気が漂い始めていた。
「悪いけど、興味無い」
「なら口出すなよ」
話題を変えず引かない小夜子に怜治は呆れ半分に苛々し始める。
「そっちが勘違いしてるからじゃないの。 愛なんて無いのに」
「寂しい人間だな」
「あなたが?」
「……あのな」
テーブルの上の水滴のついたグラスをじっと見詰めていた小夜子がそれをぐっと飲み干した。
「飲み過ぎたかな。 店も混んできたしね」
それ以上飲み続ける気も起きず、席を立ち先に支払いを済ませた小夜子が店を出る。
ありがとうございましたあ!! そんな声と共にその後ろをすぐに怜治が追ってきた。
「半分払う」