第5章 4月5日とそれ以前 社内、ある居酒屋
「いい。 今日は私が誘ったんだから」
「元々はこっち…てかそういうの、今時」
頑なな様子の彼女に、怜治が反論しかける。
その時にちらほらと飲食店の合間にあったホテルから、丁度出て来たカップルと小夜子がぶつかりそうになった。
咄嗟に後ろに避けた弾みに、怜治の背中へもたれかかる。
そこから、動けないでいた。
怜治の両腕が小夜子の胸の下で彼女を抱き止めていて、息苦しかった。
社内の人間とこんな類いの事はしない。
それにいつもならこんな微妙な雰囲気位、かわせる筈だった。
「こういうのも慣れてんだろ? 性欲だけなら」
彼は小夜子を離さない。
小夜子も今更引くにひけなかった。
「楽しませてくれるの?」
声が強ばっていた。
小夜子のらしくない虚勢だった。
「さあ?」
その後はまともな会話も無かった。
怜治は強引に小夜子の腕を引き、まさに性欲のみの行為をしたのだった。