第5章 4月5日とそれ以前 社内、ある居酒屋
「湊さんの事もあれからよく耳にした。 つか俺が普段聞いてなかっただけだ」
「私?」
「野郎共から」
「面倒くさ」
「ふ……でも随分とくだけてんのな。 女性なのに」
同じくテーブルの上の空のグラスに目をやって、怜治が軽く笑う。
まるで同年代みたいに話す。
最も、もっと冷たい人かと思っていた、そんな風に小夜子も周りからよく言われる。
「それも偏見」
「だな。 けど、相手に不足しないってのは便利じゃないの?」
「それ真面目に言ってる?」
「割と」
「不足も何も、必要じゃないなら邪魔なだけじゃないの」
「それも真面目に言ってんの? 世間の大半敵に回すぞ」
「少なくとも高階くんは敵じゃないでしょ」
肩を竦めて受け答えをする小夜子に怜治の声がワントーン低くなる。
「俺は好きな子いるから」
男の表情と声だった。
歳に合わずどこか自嘲じみて。
それをみた小夜子はどういうわけか不快な気分になった。
彼の純粋さ、もしくは正直さに嫉妬でもしたのかは分からない。
それからのやり取りは最悪だった。