第31章 6月11日 達郎の店
「……よく分かんないけど、相変わらず小夜なんだな」
「…………?」
彼がカウンターに伏せたまま、小夜子の頬に指先を伸ばす。
まるで動物にでも触れる様な。
頬や目元の辺りを軽く撫でられて、くすぐったい。
「いいよ、別に小難しく考えなくても。 傍に居てくれんなら、それだけでこっちは頑張れるから」
「……だけど、それじゃ」
「性差」
「え?」
「少し話したかな。 そういうのもある。 男って、好きな女がいてくれるだけで結構そうなれる。 小夜を抱くのだって似たようなもん。 こっちの全部使って気持ちを伝えたいだけ。 こういうの、好きな相手じゃなきゃ無理だろ?」
「……だから意味が無いって思うの?」
「ん。 けど、男と女は役割が違うから、俺はちゃんと欲しいかって聞く。 抱けば大体分かるのかも知れないけど、その辺で手は抜きたくない。 男女共根本は同じだと思うから。 じゃなきゃ一人でやる方がマシ」
「……何となく、分かる様な気がする」
彼の行為はその気持ち。
それだから、あんなに良いのだろうか。
でも、そしたら私は?
「だからこっちが望むのは、俺を欲しがって欲しいって事だけ。 そしたら、イーブンだ」
同じ位に彼を良くしてあげてる様には思えない。
「怜治って欲がないんだね」
「……そうかな。 一番得難いもんだと思ってるけど」
そう言って怜治は軽く笑い、小夜子に触れ続ける。