第31章 6月11日 達郎の店
「……にしても、今週は疲れた」
怜治がいきなりカウンターに腕を乗っけて顔を伏せたので、そんな彼に小夜子が首を傾げる。
「そっちもお疲れ様……忙しかった?」
「いや、気が抜けた。 良かった。 小夜に会えて」
「ん? だって先週、会おうって私、言ってなかった?」
確か言ったと思う。
ホテルのバスルームで。
「うん。 けど、油断したら逃げられそうで心配で」
「……………」
そんな事無いよ、そう言おうとして、週半ばの自分の気持ちを読まれていた様でぎくりとした。
タイミングを脱してしまったので少し変な間が空いた。
それを察してか、怜治が小夜子を見詰めて言う。
「俺、小夜の負担にはなりたくない。 だからって、今更離せない。 経験則だけど、一個諦めたら一個迷いが増える。 いくら小夜が逃げたくても、俺からは離れない」
自分はもしかして、というか、きっと色々と見落としている。
実は怜治の方がずっと冷静に物を見ているのだと思う。
何も返せてない、なんて思い悩むだけで、こちらが何も見えてなかったせいだ。
「不安にさせて、ごめんね」
「ん? そりゃ、こっちが勝手に」
「こういうの、下手で、私は最初は怜治にみたいにうまく出来ないかもしれないけど、私もちゃんと愛したいと思う」
「……………」
怜治が無言だったので、自分の言い方が悪かったのかと思い、ゆっくりと言い直す。
「あ、そうじゃないって意味じゃなくって、ただやり方がよく分からなくって。 でも、私は怜治と一緒にいたいから、だから……そういうのも、これから教えてもらいたいなって」