第31章 6月11日 達郎の店
「甘えてるって意味じゃないんだけどね。 ああ、今度彼に甘えてごらん。 そしたら分かるかも」
「…………?」
腑に落ちない表情をしている小夜子にみのりが達郎の言葉を繋いだ。
「どっちにしろ、お互いに愛し合ってるって事よね。 ご馳走様です」
「ご馳走様です」
みのりがぺこりと頭を下げてきて、ふざけて達郎もそうする。
揃って冷やかされて小夜子は身の置き所がない。
「ち、ちょっと……」
「ははは」
「小夜ちゃん、真っ赤。 ……でも、ホント。 それだけ愛されてるなら、まだ愛する喜びも得ようなんて、贅沢なものだと思わない? 何にもしてないなんてあんまり深く考えないで、享受しとけばいいと思うわ」
「そうそう。 っと、噂をすればだね、怜治くん。 いらっしゃい」
その方向に目をやり、少し急いだ様子で戸口に立つ彼は、最初小夜子を店に迎えに来た時の怜治を思い出させた。
それはもう、随分と前の様な事に思えた。
怜治が小夜子の姿を見て、なぜだかほっとした様な表情をした。
「こんばんは。 こないだは……って、みのりさんも」
「邪魔になるといけないから、退散するね。 二人共、今度またゆっくり」
席を立ったみのりが反対側のカウンターに移り、それと入れ替わりに怜治が小夜子の隣についた。
達郎にビールを頼み、みのりと小夜子を交互に見る。