第31章 6月11日 達郎の店
「私、怜治が好きで、付き合ってる」
「うん。 良かった」
カウンター越しに達郎が笑みを返す。
随分とお世話になったし、これからも彼は叔父だ。
けれど今後は彼も家庭を持ち、小夜子も怜治に属する。
今までとはまた異なった関係性で、これからはお互いの道を進んでいく。
「……ありがとう」
今まで、ありがとう。
そんな感謝を込めて礼を伝える。
「うん」
「ふふ。 何だか父親と娘みたいねえ」
二人のやり取りを聞いていたみのりが、微笑んでグラスを傾ける。
この人は、達郎に抱いていた気持ちを知っているのだろうか。
どちらにしろ、それでどうにかなる二人ではないのだろうと思う。
「そういう意味じゃ実際、複雑なんだけどね。 まあ彼ならいいかなって。 小夜ちゃんと相性もいいだろうし」
達郎が顎に手を当てて苦笑する。
「そうなのかな。 何か色々、私の方が気付いてなかったみたいで、……なのに、私は何も彼にしてあげてない気がして」
小夜子の言葉に達郎が少し考えてから口を開いた。
「……思うんだけど、人間関係ってチームだと思うんだよね。 家族であれ、恋人であれ、仕事であれ」
「チーム?」
「そう。 いくら気持ちがあっても、補い合えないと終わり。 職場じゃ目立たない裏方だって、プレゼンや営業するのだって、いる訳で、パッと見でその関係性は分からない。 その点でも、さっき相性良いんじゃないかなって、言ったんだけど。 愛したがりの彼と愛されたがりの小夜ちゃんって、合ってるんじゃないの?」
「愛されたがりって、私が?」
どちらかというと、逆なのかと思っていたので達郎の言葉は意外だった。