第31章 6月11日 達郎の店
「あら、今日は髪上げてるんだ。 髪留めが綺麗。 彼氏からのプレゼント?」
「は……はい」
彼氏。
慣れないその響きについ赤くなった。
「いいね。 あの子、怜治くんだっけ? 随分若いけど、会食の時もずっと小夜ちゃんの事を気にかけてたよね」
「そうなんですか?」
「いつもそうだけど」
達郎が小夜子の目の前にカンパリにレモンを搾ったソーダ割りを置いた。
「気付いてなかったの? 最初から、小夜ちゃんの様子や周りに気を使って、オーダーは小夜ちゃんに合わせて、さり気なくグラスの位置変えたげたり、色々」
「………………」
気付かなかった。
「こっからだと、色んなカップル見れて面白い」
昼と夜の境目。
お酒を口にするとそんなものを感じる。
「不倫組とか?」
「バレバレだよねえ、あの笑ってても退廃的な雰囲気って」
「……あの、達ちゃん」
「何?」
いつも優しく見守ってくれた彼の瞳。
今更、とは思ったが、きちんと言っておきたかった。