第31章 6月11日 達郎の店
蒸し暑い。
梅雨が好きな人はあまり居ないだろうが、週末の繁華街の人の多さに紛れていると余計にそう思う。
ブラウスが肌に張り付く感じとか。
そういう意味でも、一旦家でシャワーを浴びたかったんだけど。
予定の時間より余裕を持って達郎の店に入ると、金曜にしては客はまばらで、心地好いボサノヴァの音楽が流れていた。
「小夜ちゃん、いらっしゃい。 こないだはありがと」
「こちらこそ、楽しかった」
夏が近付くと達郎がいつものジャズからジャンルを変える。
涼しくて、これなら汗もひきそうだ。
怜治はまだ来ていない様だった。
いつも自分が座る奥のカウンター席、その後ろのテーブルでみのりが手を振っているのに気付いた。
「みのりさん! お仕事上がりですか」
「そう。 今日は普通にお客ね。 待ち合わせだって聞いた。 それまで一緒に飲んでいい?」
「喜んでご一緒します」
みのりがグラスを手に小夜子の横に腰を下ろす。
今晩は眼鏡を掛けて、地味めなスーツを着ている。
元々の美しさは変わらないが、こうやって見ると、学校の先生というのも何となく頷ける。