第24章 6月6日 レストランの庭、ホテル
彼女の髪の香り。
香水の匂いはしない。
いつかまた何か付けるんだろうか。
「いい? ここ丁度ホテルだし」
ムードもへったくれも無いな、我ながらそう思う。
けれど、その前に、香りさえ何も身に纏っていない小夜子を見たかった。
「昼間から?」
予想通り、小夜子が目を見開く。
「うん。 小夜は、したい?」
その後一瞬目を逸らして、可笑しそうに微笑んだ。
「うん……欲しいって、思う。 から」
辿たどしくそう言って照れ笑いをする小夜子の手を引き、二人がまた建物内へと向かう。
細い鳥の声が耳を掠め、小夜子が立ち止まる。
間もなくそれが陽の注ぐ梢の向こうへと消えていった。
「どうかした?」
「……何でもない」
その夜、怜治の胸の上で小夜子が微睡みながらその理由を呟いた。
『……絵本みたいにきらめいてたあの景色を、もう一度目に焼き付けたかったから』