第22章 6月6日 湊のマンション、レストラン
「今日はよく頑張ったな」
怜治の優しく、労わる様な表情だった。
やはり彼は私の達郎への気持ちに気付いていたのだと思った。
きちんと別れを言う関係になると思っていなかった。
こんな所まで彼は優しい。
もう充分だ。
小夜子の心臓が鳴って、腿の横で作った拳を強く握る。
言い掛けた言葉は最初に喉を掠れ、こくんと唾を飲んでまたそれを試みる。
「…………私、は…知ってた」
声は震えていたけどどうやら、話せている様だ。
小夜子が半ば目を伏せて続ける。
「え?」
「私が独りのうちは、達っちゃんも結婚しないって。 達ちゃんが私の気持ちに気付いてるって、ずっと知ってた」
「……………」
彼は口を挟まずに聞いている。
そちらの方が良かった。
そして幻滅してくれれば終わる。
「前の女性が仕事で別れたなんて、そんなの違う。 達っちゃんは私に気を使ってそうして、私は、気付かないフリしてただけ。 彼の優しさを利用した。 ……今まで、私と関係があった人も全部そう。 解ってたくせに相手の気持ちを、利用してた」
「何で?」
「どうしても達ちゃんが好きだったから。 その癖に……寂しかったから」
自分がただただ、身勝手だったから。
心の中でそうも呟く。