第22章 6月6日 湊のマンション、レストラン
「忘れてた」
怜治が相変わらず繋いでいた小夜子の手を離した。
「怒ってる?」
「怒る理由なんかないし……」
理由があるとしても、怜治に嘘をついて勝手に約束を反故にしようとした私が怒られる方だ、と小夜子は思う。
押し黙る小夜子に怜治がふいと外に目を向けた。
「中庭」
「え?」
「天気もいいし少し見てみたい。 出よう」
「…………」
怜治が通路側とは別の、直接中庭へと通じる自動ドアをくぐる。
少し遅れて小夜子がそれに続いた。
昨晩までの雨露がまだ残る木の葉がキラキラと陽に反射して揺れている。
アーチ状に整えられた樹木にはまだいくつかの白い薔薇の花が咲いていた。
植え込みに連なる紫陽花。
競って色を変える花々は雨上がりの地上の虹の様に見え、小夜子が眩しさに目を細めた。
「……今日は、どういうつもりで」
「ちゃんと振られに来た」
小夜子の言葉を遮り、今は季節ではないのだろう、水の入っていない噴水の石段に怜治が腰掛ける。
「関わって欲しくないなら関わんないけど、ただあのままサヨナラってのは納得いかない」
「私は……」
そんな資格なんて無い。
小夜子が言おうとする前に怜治が再び口を開く。
「ああ、でも」