第21章 6月1日 高階家、社内
言いながら通り過ぎようとして上腕を彼の手に掴まれた。
「高階……」
「また目を合わせない。 あんまり嘘が分かりやすいってのもな。 理由は?」
「ちょっと、ここ会」
「何があった?」
強い力では無かったが、離す素振りは無いようだ。
自分の『 嘘 』に憤っている様子も無い。
「達郎さんの婚約の事がショックだったから?」
「……………」
婚約?
「大丈夫か?」
「 婚約って、達っちゃんが?」
「え?」
ぽかんとしている小夜子の表情に、怜治がしまった、という風に自分の口に手を当てた。
「私がショック……?」
「……ごめん。 知ったのかと」
気まずそうに目を逸らしている。
息を呑んで怜治をじっと見詰めている彼女の視線に、彼が続けた。
「気付いてたから。 悪い」
気付いてた?
「……離して」
「あ、ああ。 でも、小夜。 本当に大丈……」
「お願い。 もう、放っといて」
何か言おうとする彼を振り切り、階段を駆け下りる。
達ちゃんが結婚?
怜治が何で知ってるんだろう?
何を、どこまで?
駆けて、夢中で歩き気が付けば小夜子は会議室のドアの前に居た。
もし、ここが自分の部屋だったら。
ドクドクとなる心臓を手で抑える。
いや、どこだってもう同じ事だ。
胸に手を当て目を閉じる。