第21章 6月1日 高階家、社内
『週末の食事会、キャンセルになっちゃった。 ごめんね』
きっと彼に伝えれば、そんな事気にするな。
いつもみたいにそう言うのだろう。
だけどそんな訳にはいかない。
彼の優しさまで利用したくない。
小夜子がスマホを閉じて作業を開始しようとした時、デスクの内線が鳴っているのに気付いた。
「はい……事業部長? お疲れ様です。 何かございましたか」
「うん、業務時間中に済まないが、会議室に来てくれないか。 そうだな……今ならB-4が空いてる」
「はい」
じゃ、15分後に。
そう言って電話は切れた。
何だろう、小夜子が首を傾げる。
「少し離席するけどお願いね」
「はい。 あ、戻ったらお昼一緒に買いに行きませんか? 」
「うん、分かった」
席を立ち、もう少し時間の余裕があるのを見て、非常階段で一階に向かう事にした。
「お疲れ様です」
「……お疲れ様です」
途中ですれ違う社員に声を掛ける。
あの子は、今年入った小島くん。
武井さんと並び優秀な子の筈だが、あまり課からの評判が芳しくない。
帰国子女と聞いていたがそのせいだろうか?
今度話をしてみよう。
「お疲れ様です」
「あ、お疲れ……」
手摺を曲がる所で鉢合わせたのは怜治だった。
「湊さん、キャンセルになったって聞きましたが」
「……そう。 悪いけど、急いでるから」