第21章 6月1日 高階家、社内
天気予報では週末も雨との事。
「梅雨ですからね……」
「せっかく新しく買ったワンピースおろそうと思ったのにな」
「出掛ける予定だったんですか? こんなお天気じゃ、ヒールも台無しですもんね」
お天気や洋服の事はさておき、怜治にはその場のノリでああ言ったものの、小夜子の気持ちは暗かった。
彼にこの期に及んで恋人の振りをしてもらう事。
気が進まない。
最初にそう望んだのはこちらなのに、今更とも思う。
またいつもの罪悪感だ。
怜治が一希みたいに、体の関係でもあれば少しはマシなのかな。
そんな事を思い付いた自分に吐き気がした。
彼は臆病でもお人好しでもない。
最初に彼があんな風に私を抱いたのは、きっと自分が愛情も無い癖に、相手には当然の様に優しさを求めてたのが、透けて見えたせい。
始終気圧されていたのは、私にそんな負い目があったから。
……まるで無銭飲食する客みたいだ。
精一杯もてなし創意を凝らして作られた料理を、食い散らかした挙句に、お金も払わず逃げ出す。
外のアーケードから、子供たちがふざけながら駆けて通り過ぎていく音がした。
結局私はあの頃から、何も変わってないのかも知れない。
スマホの着信があり、それを開く。
そういえば言い忘れたけど、と紀佳が大分回復した様だとの怜治からの報告だった。
『良かった』
『今朝の朝飯は俺が作った。 先生のお陰』
クスリと笑い、しばらく指をさ迷わせて送信を押した。
また私は同じ事をするつもり?
これ以上偽る事は出来なかった。