第21章 6月1日 高階家、社内
「何ですか? なんか私の顔に付いてます?」
朝からチラ見していたのに気付いたのか、武井が怜治を不審な目で見てきた。
「……なんでもない」
多分こいつなら、いい案を思い付きそうなんだけど。
とはいえそんなのを話すのは、既にバレバレな小夜子のプライバシーに関わるし。
「長年片思いしてた人間が結婚するってどう思う? あの、例えばアイドルとか」
「祝福しますけど?」
少し違うな。
「ずっと憧れてた学校の先生とか」
「それも祝福しますけど。 共通項が憧れなら」
「単純に好きな相手なら?」
「いくら高階さんでもそんなのは言わなくっても、分かるでしょう」
武井が呆れ顔で言う。
「ヤケ酒とかする?」
「それ出来る位なら、大したダメージじゃ無いんです」
分からない。
実際、どれ位のものなのか。
初めから『そう』で、失恋が確定した時に既に自分は小夜子を好きになっていたから分からない。
「何にしろ、他人がどうこう出来る事じゃないですよ」
それはそうなんだけど。
今朝もちらりと見掛けただけだったが、何しろ彼女の様子が普通過ぎる。