第21章 6月1日 高階家、社内
ポケットにあるスマホの振動に気付いた。
「ん?」
内容は文章が無く、時間と店名が記載されたメッセージ。
送信元は湊達郎。
何だ、朝早くに。
何かの誘いか?
小夜子から何か話があったか?
思い巡らすも記憶に無い。
『何日でしたっけ?』
しらっと、そんな風に送ってみる。
『6日。 別に改まった服装じゃなくっていいからね』
今週末だ。
聞いてねえし。
改めて場所を確認してみる。
一流とは言わないが、それなりのホテル内のレストランだった。
『ドレスコードとか無いんですか?』
『無いよ。 単なる彼女との婚約の報告の食事会。 気軽にね』
は?
だから聞いてねえって。
小夜子は?
『そうなればいいな』
『うん、そう思う』
あの時彼女はそう言ってた。
最近も、いつもと変わらない様子の彼女。
本当に何とも思ってないって事か?
色々と腑に落ちない。
自分が小夜子から知らされていなかった事。
誘われていなかった事。
なのに達郎にそれが伝わって無い事。
嫌な予感がする。
こういう時に嘘じゃなくて、本当の大義名分があれば良かったけれど。
途方に暮れて空を見上げると厚い雲が掛かっている。
先ほどとは裏腹に、怜治は暗い気持ちでため息をついた。