第20章 5月26日 高階家
「損な性格って?」
「俺の母親は俺を見捨てたけど、別に恨んじゃいない」
「………?」
「ああいうのは単に夫婦の問題だろ」
自分は両親が揃った家庭だったから分からない。
けれど、自分の子供を見捨てていい理由なんてどこにも無い。
「……でも、私は無責任だと思う」
「無責任って言うんなら、同じ咎は親父にもある。 それでも紀佳を見てると、俺を産んでくれただけで充分有難いって、最近そう思う」
「……? それと、さっきの質問のどういう関係があるの?」
「だな」
怜治の言いたい事が小夜子にはよく分からなかった。
自分が産まれて在ること。
今さらそんなものに有難がる彼を不思議に思った。
その間中、彼の手から伝わる温かな肌の感触に癒されて、小夜子はうっとりとして目を閉じていた。
「あ……そこ、…怜」
しばらくして彼の動きが止まり、一瞬の重みののちに自分の首元に軽く怜治の腕が絡まる。
「………どうしたの?」
「耐えてんの」
怒ってる様な声音に察して、小夜子はクスクスと笑ってしまう。
「もはや何と戦ってんの? そこまで、我慢しなくていいのに」
「んな事言うな」
「私が言ってるのに?」
「………悪魔か……けど、ダメ」
彼の腕。
長くって、簡単に自分の体に回りそうだ。
耳に息がかかって変な気分だし。
女にここまで言わせて、手を出して来ない怜治がまどろっこしい。
「小夜、付き合おう」
「………………」
体が動かなかった。
「即答、出来ないだろ?」
それどころか、何も言えない。
上手い誤魔化しや言い訳さえも。
「だから駄目だ。 小夜が本気で俺を欲しがんないなら意味が無い。 ……そろそろ家まで送る」