第20章 5月26日 高階家
それからも、紀佳が比較的落ち着く10日程の間、小夜子は何度か怜治の家を訪れた。
毎回常備菜なども用意し置いていくので、毎日通う必要はなかった。
食事も怜治の家で済ませ、帰りは断らない限り彼が送ってくれたし、小夜子の私生活に支障は無かった。
「紀佳さん、少しは良くなった?」
怜治は小夜子に話した通り自室に彼女を通す様な事もせず、距離を置いた付き合いを心掛けている様だった。
「お陰で。 一昨日、ついでにって紀佳にゼリー作っといてくれたろ? 凄え美味かったって感動してた」
「よかった。 さすがに栄養が心配だったから」
相変わらず果物しか受け付けなかった紀佳を思い、果物のスムージーに人参などの野菜のピューレも混ぜておいたものだ。
トマトやかぼちゃ、そういうのもいいかも知れない。
「けど、改めて思うと子供産むのって大変だよな。 最近は脚がよく浮腫むとか」
夕食後、居間でお茶を飲みながら怜治が感慨深げに言う。
四人掛けの豪奢なソファで、キッチンと同じにリビングも広い。
「そうみたいね」
「小夜もいつかあんなんなんのかな」
そういえば、そんな会話をつい最近、今井ともしたっけ。
金子が子供を持った事を伝えた時に彼は、羨ましいと口にした。
「私は考えらんないな」
あの時と同じ言葉を口に出す。
今手に取っている上品な柄の、来客用のティーカップ。
例えばこんなものと引き換えに、女性は夢やキャリアを捨てるんだろう。
「……小夜って損な性格してる」
「え?」
怜治がそれには何も言わずに立ち上がり、座っていた小夜子の背後から肩に手を置いた。
「何?」
「いっつもそんなんじゃ肩も凝るだろ?」
そんなって、何だろう?
何かされるのかと思ったら、彼の親指がやんわりと小夜子の肩を指圧してきた。
マッサージのつもりかな。
「?よく分かんないけど、ありがと…ん……」
「痛い?」
「んん、気持ち……」
普段紀佳にでもやってるのか、絶妙な力加減で肩や背中を押していく。
「昔よく先輩にやらされた」
そういえば、彼は学生時代は運動部だったとも聞いている。