第19章 5月21日 高階家
「…………」
「ごめん。 ツボった、小夜なのに」
「どういう意味」
まだ彼の肩が震えて俯いている。
その合間に彼がふざけて言う。
「でもちょっと忘れかけ。 触っていい?」
「ダメです」
そんな調子でまた笑われたら立ち直れない。
段々と治まってきた怜治が、首を傾げて記憶を辿るみたいな目をした。
「胸、綺麗だった覚えある。 先っぽとか上向いて」
「もういい……」
私だってそんなのよく覚えてないし。
今度はいたたまれない気分になった。
「下から掬うと全部一緒に揺れて、可愛くて凄え色っぽい 」
「いいってば」
「いや、ホント。 けど、 そんな風にちゃんと嫌がってくれるなら助かる。 俺は小夜に時々我慢出来ないみたいだから」
「………………」
「無理強いなんかもうしたくないし、それに」
「それに?」
「小夜が逃げそうで怖い」
「逃げ……?」
「まだ愛情なんかないって、思う?」
「………………」
「前も言ったけど、押し付けるつもりは無いし、無理だから。 だから受け入れてくるまで待つ。 錯覚かも、だなんて小夜が思わなくなるまで。 それがこっちの意思決定」
控え目に聞こえても、それは彼の強い自己主張だった。
そんな日なんて来ないかもよ、なんて軽口など言える隙もない。