第19章 5月21日 高階家
半ば呆れた口調で小夜子が呟いた。
「凄い、ね」
「好きだとか、口じゃ何とでも言えるだろ」
「怜治って、肉食なのか草食なのかよく分かんない」
「それ自体に関してはその辺の男だけど、少し忍耐強いだけだと思う。 ただなるべくジジイになんない内に頼む」
今度は小夜子が噴き出した。
思わずお腹を抱える。
「ババアの私を抱けるの?」
「楽勝」
「ふふ……」
涙まで出てきて、思わず目尻を拭う。
彼といると、色々上手くいかない。
だけどじんわり心が温かくなる。
程なくして怜治の父親が帰宅し、紀佳から話は聞いた、見ず知らずの方を情けない事に巻き込んで済まない、と泰が深々と小夜子に頭を下げた。
「いえ、あの、同じ会社仲間ですし、いいんです。 こちらも普段から良くしていただいてますから」
「……怜治が?」
「仕事面でも、彼はうちにとって大事な人間ですし」
「そうですか」
険しく硬い印象の泰がふわりと微笑む。
ギャップ、と、若い女性にもきちんと礼儀正しく。
確かに中年の歳ではあるが、紀佳が泰を選んだのも分かる気がした。
筒井課長に爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい所だ、小夜子は心の中で毒づいた。
泰と紀佳、各々が持たせてくれた菓子折を抱え、送ってくという怜治をやんわりと断って帰路についていた。
帰り道は住宅街、繁華街へと続き明るい。
最近の運動不足の解消にもなる。
良い家族だと思った。
たまには自分も実家に帰ろうかな、とも思う。
とはいえ、以前に達郎の店で怜治に話した事は、あながち嘘という訳では無い。
きちんと生活してるのか、そろそろ結婚したら、などと小夜子の親は口うるさい。
うっかり油断してると見合いでも持ちかけてきそうな勢いだ。
女は色々不便だと時々思う。
仕事盛りの年齢に適齢期、そして出産。
自分にはとても無理。
そんなのを想像すると目眩がしそう。