第19章 5月21日 高階家
「初めまして、こんにちは。 湊小夜子です」
「その声、もしかして病院で?」
「はい、込み入った時に失礼し」
「わああ、素敵な人、ね。 怜治くん。 こちらこそありがとう。 どうぞ、入って入って」
いきなり腕を取られて小夜子が面食らってると、怜治が苦笑して後から玄関に上がってきた。
紀佳はなんと言うか、たんぽぽの綿毛みたいな女性だと小夜子は思った。
朗らかで、ふんわりしてて。
家の物は古い家具などもいい物が多い様で、こういうものも大事に使っているみたいだ。
総チークのチェストなんて、今なら逆に高値が付きそうなもの。
「もう動けはするのね。 けど、食べ物系がどうしても受け付けなくて、怜治くん達にはホントに申し訳なくって」
リビングで腰を掛けた紀佳が向かい側の小夜子に困った様に話す。
「俺らの事より、だからって桃缶ばっかり食べるのもどうかと思う」
「体が欲してるものを食べたらいいって聞いた事あるから、大丈夫だと思うけど……」
まだお腹がそれ程目立ってないとはいえ、彼女の顔色はそんなにいい様には見えなかった。
「教えるにしても、やっぱり今は。 でね、せめてこれ書いといたの」
そう言って紀佳が一枚紙にキッチンの見取り図と、調味料や鍋などの配置が詳細に書かれた用紙を差し出してきた。
「わ、助かります。 ありがとう!」
「……気が合いそうだな」