第19章 5月21日 高階家
駅で怜治と待ち合わせていた小夜子は、自分の家の方角ではなく南口の方へと歩く。
こちらの方には滅多に来ないが、デパートや飲食店の多い北口に比べ、ロータリーも落ち着いていて緑が多い。
オフィスに置いてあったごくごく薄いレースのカーディガンを着てきたが、初対面の人と会うならもう少しフォーマルな格好で来るべきだったか。
でもお呼ばれという訳でもないし。
あれこれ考えているうちに背後から昨日の昼間に聞いた声が自分を呼んだ。
「今更なんだけど、いつの間に名前呼び捨てになった訳?」
「呼び捨て? あれ、そういえば」
今気付いた、という感じで怜治が頭に手をやった。
とりあえず歩きながら、と彼が先を促す。
「ん? 何これ」
怜治は小夜子が手渡したA4の用紙を眺めた。
「南口の方のスーパーのリスト。 常備品でオススメなのと、お惣菜系で比較的美味しい所、リストアップしといた」
「仕事か」
「ただの性分」
「小夜は? 呼びやすい」
「ん? だからどっちにしろそれ呼び捨てじゃないの」
「だって達郎さんとかもいる訳だし。 そっちだって今からうちに来るだろ? そしたら皆高階って呼ぶのか?」
「……それもそうか。 じゃ、社外限定厳守出来る?」
「了解した」
でもこの人ってば、今まで何度かうっかり呼び捨てした前科あるんだよね。
本人はなんにも考えてないんだろうけど。
「……誓約書が必要かな」
「だから仕事か」