第2章 4月5日 高階家
「ねえ、怜治くん。 夕食に使ったナッツが余ったから、フロランタン作ったの。 食べないかな?」
受験勉強に勤しむ怜治に、結婚をしてからも紀佳はよく世話を焼いた。
その癖は彼が社会人になっても変わらない。
「ん、美味い」
「でしょ? なのに泰さんってば、頑なに甘い物は食べないんだよねえ」
平皿に差し出された焼き菓子を摘み一口、また一口と口に運ぶ怜治に紀佳が愚痴る。
だろうな、と怜治が相槌を打つ。
あらゆる所で無駄を嫌うあの父親が甘味を口にする所なんて想像出来ない。
怜治は父親に腹を立てた。
それなのに、見返りも無いのに彼女がこんなものを作り続けるのは何故なのか。
新婚のうちから深夜に帰宅する父親を待ち続けるのは何故なのか。
そんな紀佳にも。
正直自分と五歳も変わらない紀佳にどう接すればいいのか、当初、高校生の怜治は分からなかった。
だがその答えは間もなく簡単に解ける事となる。