第2章 4月5日 高階家
実の母親が、父と怜治を置いて家を出たのは彼がまだ当時小学生の時だった。
元々寡黙で仕事人間だった父親。
彼は悪人という訳ではない。
少なくとも、怜治は父の泰から母親の悪口を聞いた事は無い。
それは情が無いのか深いからなのか。
物心ついた時に怜治は、泰は前者の方の人間だと知った。
生活には困らなかった。
週の半分は家事手伝いの者が来てくれ、怜治に必要な物は多少の贅沢品でも買い与えられた。
中、高と金の掛かる私立に進み、そんな折、何年も家を見てくれた気のいい年配の女性の代わりに、新しく人手に来たのが、のちに彼の継母となった紀佳だった。
「まだ何かと手が要るからな。 再婚する事にした」
あんな若い嫁さん、どうやってその気にさせたんだ?
怜治の家はそんな会話の出来る家庭では無かった。