第16章 5月15日 病院
「…………」
自分と違い、小さな頃に独りでいた怜治を思った。
あの人はきっと、恋人というよりも母親のような存在だったんだろう。
病院での彼の態度は息子そのものだった。
「おい……」
そして、ずっと我慢して。
彼女はあくまで父親のものなのだと。
好きな人が妊娠して傍でそれを見て、こうして見守っている。
「……泣くなよ」
困惑した様な彼の声が聞こえた。
自分だけが置いてかれてるなんて、傲慢も良いとこだった。
彼なんてもっと辛いのに。
「………あなたの代わりに泣いてんの」
「頼んで無いし……あと、少し誤解してる」
「…………?」
「祝福してるよ。 今は、心から」
「……そう、なの?」
顔を上げると穏やかな表情の彼がいた。
「でも、ありがとう」
そう言われると、余計に泣けた。
首を傾げて弱りきった顔をした怜治が小夜子の肩を手で包んだ。
「……………」
抱き寄せられた小夜子の頬に、唇が触れる。
二度、また目の近く、別の場所に。
「た………」
髪に、瞼に、口付けをされる。
四度目で数が分からなくなった。