第16章 5月15日 病院
「……別にこれが原因で家出るって訳じゃなかったけど、一部でもある」
小夜子の心の内を呼んだみたいに怜治が話し始め、彼女が怜治に向き直った。
「軽蔑されるかもしんないけど、あの人が俺の好きだった人だ」
「………………」
「親父は昔から家に居なかったし、良くしてくれたのはあの人だけだった。 それで自然に……気付いたらそういう関係なって」
「そういう関係……」
怜治がやや曖昧に頷く。
「他人に言う事じゃないのかも知れないけど。 ここまで来たら話しといた方が手っ取り早いかと……え?」
最初に、それから達郎の店で彼と話した会話。
『そんな気楽なもんじゃない』
あれはやはり『彼』だった。
一筋、二筋と小夜子の頬に涙が伝った。
「何? なんか、俺……小夜子?」
「ごめ………」
堪えようとすると余計に出てくる。
両手で鼻の脇を抑え、俯いた。