第16章 5月15日 病院
「何で……?」
「泣き止まないから」
濡れた肌に止まないキス。
小夜子も抵抗をしない。
「待って……私顔、変」
「綺麗だと思う」
顔を隠そうとする小夜子の手を避けて、また口付けてくる。
フェイスパウダー所々禿げてたらどうしよう、とか病院で何してるんだろう、とか。
回らない頭で混乱した。
しばらくして彼の口付けが止み、小夜子を抱いている辺りの耳許で声がした。
「泣き止んだ?」
「………はい、すみません」
小さく噴く音が聞こえた。
彼が小夜子の体をそっと離す。
リアクションが思い付かなかった。
表情も、言葉も。
「わ……たし、そろそろ帰るね」
「ごめん、今日は。 また埋め合わせさせて」
「気にしないで。 お母さん、お大事に」
若干ぎこちない気がしないでもなかったが、何とか笑顔を作れた。
小夜子が今度は通常の出口の案内へ沿って歩き始めた。
背後に怜治の視線を感じ、歩き方を忘れたみたいに心許ない。
何であんな?
演技……じゃなくて。
無理やりに脚を進めて、結果いやに早歩きになっていた。
とにかくその場から早く離れたかった。
それに、私はなぜ流されたのか。
同情した?
違う。
触れられて心地好くて。
性的なものではなく、もっと自分の内側。
あの時、自分の心が喜んだんだ。