第16章 5月15日 病院
若干決まりが悪そうに言う怜治だったが、直後に近くの診察室らしき所から現れた看護師が彼の名を呼んだ。
「高階さん、高階さーん」
「僕です」
「付き添いの方? こちらに」
「はい」
怜治が診察室に向かいかけ、立ち止まって小夜子を振り返った。
「一緒に」
「私?」
頷く怜治に小夜子があとに続く。
何で、部外者の私なんかが。
「失礼します」
「うん。 息子さんだね。 こちらは?」
小夜子をちらりと見た医師に、怜治がやや小声で言った。
「……高階紀佳の友人です」
「そう」
「……………」
医師が示した椅子に腰掛けた怜治に、先方が話を始めた。
「母子共に大丈夫だよ。 だけど、最近貧血が酷くなかった?」
「そういえば、少し聞いてました」
「出血があったからね。 前回の診察時にも少し気にはなってたんだけど、旦那さんは?」
「今日は仕事で、僕が」
「今度の検診は旦那さんも一緒にって言っといて。 今日は数時間で帰れると思うから」
「はい」
そんなやり取りを聞きつつ、背後のカーテンの隙間から点滴が見え、少し迷ったが小夜子が中を覗いた。
………こないだの女性だ。
眠っているのか、軽い寝息をたてていた。
だけど話の内容、この人が怜治のお母さん?
頭にはてなマークが浮かんでは消える。