第13章 4月29日 達郎の店
触れ合う肌が粟立つ。
怜治が眩しそうに小夜子を見詰める。
でも、逸らさない。
微かに小夜子の顎が震えて、自分と同じに一見表情を変えない彼の指が彼女の唇へと移動した。
今度は触れない。
まるでそこに薄紙を挟んだみたいに彼は小夜子に触れなかった。
壊れてしまうとでも思ってるのだろうか。
それ位に注意深く、けれど瞬きの間に余韻の道を作る。
ただその形をなぞり、彼女の膨らんだ下唇で指先を止めた。
なぜ自分がそんな行動をしたのか分からない。
引かれるように小夜子が怜治の指先に吸い込まれる。
キスをする様にすぼまるでもなく、唇を開くでもなく。
小夜子の自然に開かれた上下の唇が彼の指先を捕らえた。
その時に小夜子は初めて目を閉じ、その感触に注力しようとした。