第13章 4月29日 達郎の店
掬い上げた髪の束が彼の手に乗り、砂の様にその指を通り過ぎてく。
髪先から感じる皮膚が鋭敏にその強弱に反応した。
「髪、綺麗だな。 触れたくなる」
何か言いかけて、口を閉じる。
彼がそんな小夜子を見ている。
薄明かりの下で、彼の通った鼻筋や高い頬に陰影が出来ていた。
彼から目が離れなかった。
指に絡まる髪が無くなり、怜治が今度は指をこめかみに沿わせる。
手の甲が僅かに小夜子の頬に触れた。
一方で、視線は絡め合わせたままだった。
「少し顔赤い。 小夜子も酔った?」
「………ううん」
生え際に指先の感触を感じ、彼女もそれに触れる。
皮膚が硬く力強い、男の手だった。
彼の指の付け根からから手首へと、小夜子のしなやかな指先が流れる様に怜治の皮膚を撫でる。
周りの喧騒が消えた。