第13章 4月29日 達郎の店
「ハイハイ、邪魔して悪いけどお二人さん。 さっきからグラスが空なんだけど、ご注文は?」
パン、と手を叩く音に現実に引き戻され、小夜子が慌ててカウンターへと顔を戻す。
一気に耳へと流れ込んでくる周囲のざわめき。
「全く。 イチャつくのもいいけどね」
達郎の言葉に小夜子の顔が、熱くなった。
「ええと……チンザノ…の、ライム割り」
「ロックで?」
「ソーダで」
「高階くんは?……はは、二人して何赤くなってんの」
怜治が?
小夜子は彼の顔を見れなかった。
『五分だけ、ちゃんと演技』
あれは演技だ。
「本格的に飲みたいけどなあ。 明日が平日じゃなかったらいいのに」
その普段通りの怜治の声に小夜子が彼に顔を向けた。
「じゃ、今日はショットでいくつか味見してみる?」
「是非」
そう受け答えをする怜治はやはりいつもの彼だった。
五分。
多分もう五分は過ぎた筈だ。
さっきから心臓が鳴りっぱなしでうるさい。
一瞬、時が止まっていたみたいだった。
怜治に視線をやると、彼が微かに頷いた。
自分の顔が強ばっていた。
何にしろ、企みは上手くいった。