第13章 4月29日 達郎の店
「ありがとう、そうさせてもらう」
小夜子と怜治がカウンターの隅に腰掛けた。
彼女が予約を入れておいたのだろう。
「今日は記念日だったんだな」
「ん、ごめんね。 せっかくだからと思って」
「こういうのは嫌いじゃないよ」
「でしょ?」
出入口やカウンターに並ぶ色とりどりの花。
それを祝い、楽しむ面々。
30席程の店は既に7割方埋まっていた。
小夜子の言う通り、良い店なんだろう。
けれど、気付いてしまった。
彼女が身に付けている香水は、あの花の香だ。
「何飲む?」
「一杯目はビール」
「もしかして飲むつもりですか!? 怜治さん」
「かも」
彼女は不倫なんかじゃない。
「多分、辛口が好みなんだろうね。 ウイスキーは?」
「いけますよ」
酒なんか何だって構わない。