第13章 4月29日 達郎の店
「6周年、おめでとう!」
前回と同じに、木戸を開けて顔だけを出した小夜子が出鼻から祝福を口にする。
平日に挟まれた祝日の中日。
早い時間から既に店の常連でざわついた店内は、達郎の店が開店してから6年目を祝う客が殆どだった。
「ついこないだ連絡して、催促したみたいだな」
苦笑する達郎に小夜子が紅色の花のアレンジメントを差し出した。
達郎がそれに顔を寄せ、嬉しそうに微笑む。
「この時期に、よく見つけたね」
「そりゃ、達っちゃんの為ですから」
「……………?」
小夜子の後から店に入った怜治が、不思議そうな顔でそんな二人の会話を聞いている。
「達っちゃん、元はサーファーなんだよね」
「もう昔の話だけどね。 で、一等好きな花がこのハマナス」
達郎にならい、怜治が濃い桃の花に顔を近付ける。
爽やかで微かに甘く、野性味のある。
「………いい香りですね」
「だろ? 夏が近づくと浜辺に咲く。 野趣があり、それでいて華やかで。 ワイルドローズの一種でもある。 今日は固定メニューで悪いけど、朝から仕込んだんだよ。 楽しんでって」