第3章 ラブ・エモーション【沖矢昴】*
どういう意味ですか?と聞く間もなく、
昴さんのペースに飲み込まれてしまった。
食器を片付けると、今度はリビングに通された。
メインライトは消されており、間接照明の柔らかなオレンジ色が良い雰囲気だ。
部屋の隅にあるアンティーク調のステレオからは、音量が少し下げられたジャズミュージックが聞こえてくる。
まるで、高級ホテルのバーに来たような気分になった。
「ピーチリキュールとストロベリーシロップに、炭酸水を合わせたカクテルを作ってみました」
細長いカクテルグラスが目の前に置かれる。
パチパチと炭酸の泡が弾けるたびに、桃の良い香りがあたりに漂った。
「僕は最近バーボンが好きで…」
昴さんがウイスキーグラスを傾けると、カランと、氷が鳴いた。
昴さんが作ってくれたカクテルは、甘いジュースのようで
話しながらもつい手が伸び、いつの間にか飲み切ってしまった。
「おや…少しペースが早いのでは?
カクテルは飲みやすいとはいえ、度数は高めです。
お水を持ってきますね…」
「ありがとうございます…」
私が一杯飲み終える間に、昴さんはバーボンをロックで三杯も飲んでいた。
人のことは言えないはずなのだが、顔色一つ変えずに飲み進める昴さんと違って
私は少し酔いが回ってきたようだ。
「ルナさん、どうぞ」
昴さんがお水の入ったグラスを持って隣に座った。
グラスには細いストローが挿さっていて、細やかな気遣いが嬉しい。
「…ふぅ、少し飲み過ぎてしまったようです」
「そうですね、顔が赤い…もう一口、飲んでおきましょう」