第3章 ラブ・エモーション【沖矢昴】*
「沖矢さんすごいです!一人で作るの大変だったでしょう?」
「褒めるのは食べてからにしてください、先生。
誰かのために作る料理は楽しいものでしたよ…
おっと、つい癖で先生と呼んでしまいますね。
今日はレッスンではない…と言うことなら、お名前で呼んでも良いですか?」
「はい、もちろん」
「では…ルナさん、今日は僕の我儘に付き合ってくださり、ありがとうございます」
シャンパーニュグラスに注がれたそれは淡いピンク色で、
グラスをコツンとぶつけると、繊細な泡が揺れて華やかな香りが鼻を掠めた。
「ルナさんをイメージしてロゼ・シャンパンを選びました。
いかがですか?」
「ん…とてもフルーティーで美味しいです」
こんな風に誰かと食卓を囲うのは久しぶりだ。
沖矢さんが作ってくれた料理はどれも美味しくて、
特にメインのビーフシチューはお肉が口の中でホロホロとほどけていった。
「沖矢さん、もうレッスンが必要ないくらいですよ」
「ご冗談を…僕はまだまだですよ。ルナさん、今日は僕のことも名前で呼んでくださいませんか?」
「え?…あ…」
そう言われると急に恥ずかしくなって、沖矢さんの名前が呼べないでいると、
「僕の名前は昴、です。さぁ…」と促されてしまった。
「す…昴、さん……」
今にも消え入りそうな声しか出ない。
きっと今の私はロゼ・シャンパンよりも赤い顔をしているだろう。
「……そのようにいじらしい反応をされては僕も困りますね」
「ご、ごめんなさい…」
「いえ、謝ることはありません。いい意味ですよ…
そうだ、デザートの代わりに甘いカクテルはいかがですか?」