第3章 ラブ・エモーション【沖矢昴】*
「わぁ、素敵なお皿…なんだかレストランに来たようです」
「今食事を温めますね、少しお待ちください」
「私も何か手伝いますよ」
「いいえ、先生はお客さまですのでどうぞそのまま…」
言われるがまま椅子に腰をかけていると、キッチンに立つ沖矢さんがよく見えた。
いつもレッスンで使っているエプロンを身につけ、手を洗う。
一つ一つの動作がなぜか私の心をくすぐった。
「先生、今日は髪を降ろしているんですね」
「あ、はい…今日はレッスンではないので」
不意に話しかけられ、沖矢さんを見ているのに気づかれてしまったかと
恥ずかしくなって少し視線を落とす。
「印象が変わって良いですね。確か、初めてお会いした時もその髪型でした」
「そうでしたか?よく覚えてますね」
「可愛らしい方だなと思ったので、記憶に残っています」
「…え」
聞き間違いかと思い、再び顔を上げると沖矢さんと目が合う。
「僕は自分に正直なんですよ…」
そう言いながら沖矢さんはコンロに火をつけた。
トクトクとはやる心臓は言うことを聞かない。
まるで学生時代に戻ったかのように、甘酸っぱい恋心に胸が痛くなった。
気がつくとテーブルの上には沢山のお皿が並べられ、
前菜、スープ、メイン…どれも美味しそうだ。