第3章 ラブ・エモーション【沖矢昴】*
「うぅ…これで大丈夫かな…変じゃ、ないかな…」
鏡の前でくるくると自分を見てみる。
あんまり気合い入れたような格好も恥ずかしいし、
かといっていつものような汚れても良い服でも失礼だし…
一応、お気に入りのシンプルなワンピースにしてみた。
涼しげなアイスブルーが爽やかだ。
いつも縛っている髪を下ろして、少しだけ巻いてみる。
出発の時間が近づいてくるにつれて、
ドクン、ドクン、と心臓がうるさくなった。
「先生、こちらです」
駅に着いて連絡をすると、沖矢さんがすぐに迎えにきてくれた。
「こ、こんにちは…」
「ふふっ、もしかして、緊張してます?」
クスクスと笑う沖矢さんにつられて、私も笑った。
あぁ、この笑顔を今日は私が独り占めできるんだ。
「素敵なワンピースですね。よくお似合いだ。
さぁ、こちらにどうぞ」
小さな赤い車の助手席のドアを開けて待ってくれている。
ありがとうございます、と言って乗り込むと優しく閉めた。
「……え?ここ…沖矢さんのお家…ですか?」
目の前には絵本の中でしか見たことの無いような豪邸がある。
「ええと、話すと長くなるので…
訳あってお借りしているのですよ」
慣れた手つきで鉄の門扉を開けると、石畳を進んでいく。
あまり聞かない方が良いのかなと思い、それ以上は口をつぐんだ。
「では先生はこちらに座って頂いて…」
キッチンダイニングに通され、引かれた椅子に腰掛けると
すでにお皿やグラス、カトラリーが綺麗に並べられていた。