第3章 ラブ・エモーション【沖矢昴】*
私の料理教室の生徒さんは40~50代の女性が多かった。
「お兄さんイケメンねぇ!今いくつ?」
「うちの娘、どうかしら」
「本当、カッコいいわ~」
こんな会話にも沖矢さんは優しい笑顔で答えていて
奥様方からは「王子様」なんて言われている。
王子様のおかげで入会希望者も増えたから、
私としてはありがたいのだけど…
おしゃべりに夢中でときどきレッスンが進まないなんてこともあった。
「さぁ、奥様方。先生のレッスンを聞きましょう。
僕も早く皆さんの包丁さばきが見たいですから…」
沖矢さんは私が困っていると必ずフォローしてくれた。
嫌な感じは微塵もせず、
生徒さんが自分から私の話を聞いてくれるように…
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「先生、これで良いですか?」
「はい、大丈夫です。あとは蓋をして煮込むだけです。
沖矢さん、手つきが慣れてきましたね」
「そうですか?先生のおかげです。ありがとうございます」
レッスンは滞りなく進み、1対1ということもあってか
時間より早く終わってしまった。
「肉じゃが余っちゃいましたし、
沖矢さん、タッパーお持ちでしたら持って帰りますか?」
「それはありがたいのですが、生憎持っていませんね…」
「そうですか…あ、ちょっと待っててください」
さっきお鍋を出すときに使っていないタッパーがあったのを思い出した。
「先生、僕がやりますよ。またあのようになっては危ない」
椅子を引きずってキッチンの前に置いたらそう言われてしまった。
事故ではあるが、男の人の上に倒れこんでしまったことを思い出して
少しだけ顔が熱くなる。
「タッパーなら軽いですから大丈夫ですっ」
「まぁそう仰らずに。僕は先生のお役に立ちたいんですよ」
沖矢さんにニコッと微笑みかけられて
私は頭がクラクラとするようだった。