第1章 監督生
「貴方、ここへ来るときに持っていたものなどは?身分証明になるような、魔導車免許証とか靴の片方とか……見るからに手ぶらですけど」
「そういえば財布もスマホもない」
パタパタと服を触ってみるけれど持ち物らしきものは何もない。
「困りましたねえ。魔法を使えない者をこの学園に置いておくわけにはいかない」
そりゃそうですよね、とユウは心で思う。
魔法士養成学校なのに魔法が使えないなんてスタートラインにすら立っていないのだから。
「しかし保護者に連絡もつかない無一文の若者を放り出すのは教育者として非常に胸が痛みます。私、優しいので」
うーん…………と考え出すクロウリー。
「そうだ!学園内に今は使われていない建物があります」
「!」
「昔、寮として使われていた建物なので掃除すれば寝泊まりくらいはできるはずです。そこであれば、しばらく宿として貸し出して差し上げましょう!」
「有難うございます!」
クロウリーの提案にユウは素直に喜ぶ。
ここがどこなのか。
世界が違う等と言われても夢から覚めないこの状況では生きていくことを考えなければいけない。
一先ず、寝床を確保できたことにユウは安心した。
「その間に貴方が元いた場所に帰れる方法を探るのです。あ~なんて優しいんでしょう、私!教育者の鑑ですね」
「本当にその通りです。有難うございます」
ユウがそう言うとクロウリーはニッコリと笑った。
「では善は急げです。寮へ向かいましょう。少し古いですが、趣のある建物ですよ」
そう言って連れてこられた寮は立派な建物ではあるが誰も使用していないせいで老朽化している建物であった。