第7章 暗殺者の上手な別れ方【中編】
「…………」
いつもなら。
こうして抱きしめてやればいつのまにか聞こえてくるはずのかわいい寝息。
だけど。
カタカタと震える体からは力が抜けていかない。
ぎゅ、と。
小さな体をさらに丸めて。
時雨は必死に何かと闘っているように見えた。
「時雨」
後ろから掌を伸ばし、時雨の両目に当てる。
余計なものなど、見なくていいように。
「教授、ごめん。眠れないよね?」
明日も仕事、あるのに。
小さく漏れた言葉と、掌に感じた濡れた温もり。
「…………大丈夫。時雨、怖くないよ」
「ん」
「大丈夫。怖くなくなるまで、こうしてるから」
「…………ん」
「大丈夫」
後ろから。
肩や背中、頸へと唇を寄せる。
時折漏れる小さな吐息。
ピクン、て震えるからだ。
「時雨」
耳元で小さく囁けば。
時雨はゆっくり小さく、頷いた。
「…ん…………っ、ぁん、ぁああっ」
慰めてあげる、術を知らない。
全てを包み込む器量も生憎持ち合わせてない。
「時雨…っ」
「きょー…じゅ…………っ、も…っ」
ただただ時雨の細い腰を引き寄せて、何度も何度も腰を打ちつけた。
奥を突くたびに。
媚びるようにからみついてくる時雨のなか。
息も絶え絶えに。
目を。
顔を。
両手で隠す、時雨。
「…………駄目」
ちゃんと見せて。
ひとりでなんて、泣かせない。
溢れる涙を唇を寄せて、拭いとる。
「やだ…………っ」
両手首を捕まえて、ベッドへと縫い止めれば。
真っ赤な瞳をした時雨が、視線を反らす。
戒めるように。
ぐり、っと奥までさらに腰を進めた。
「…………!!」
そのまま。
息を飲むように反り返る身体。
溢(あふ)れる涙と、溢(こぼ)れる唾液。
「お…………っ!!く、や、っぁあ!!」
泣くなら、俺のために啼いて。
余計なことで、貴重な涙流さないで。