第6章 映画鑑賞はお静かに
「時雨、私もちょっと具合悪い」
いないと思っていた教授の声に、一瞬びく、としながらも。
仕方ないなぁ、と。
少し、いやかなり背伸びをして。
教授の額と自分の額をごっつんこ。
「大丈夫。熱ないよ」
そう、笑顔で教授から離れれば。
驚いたように額に手を当てて。
だけどすぐににこりと笑顔になった。
「さすが時雨ですね。今ので雨音くん、命拾いしましたよ」
「?」
「今のは私以外、しないでください、と言ったんです」
笑顔でくしゃり、と頭を撫でられて。
今更自分のしでかしたことに顔、あっつ。
なんであたし、教授におでこごっつんこなんてしちゃったんだろう??
雨音みたいに額に手充てるくらいで良くない?
や、ば。
今さら恥ずかしくなってきた。
「時雨?映画見ないんですか?」
「え?見るよ、みる………」
恥ずかしさで頭がパニックになってる隙に。
広いソファーの上、なぜだか教授に後ろから抱っこされる形で座っていた事実に、はじめて気付く。
「教授」
「なんでしょう?」
「ソファー、有意義に使った方が良くない?」
「ええ使ってますよ、もちろん」
「……いやでもこれ、狭い」
「疲れて帰ってきたのに、時雨に触れちゃ駄目なんですか?時雨は癒やしてくれないんですか?」
「え、えー?」
なんかまた、面倒くさくなってきた。
たまに教授面倒なくらいにしつこい時、あるから。
「……いい、このままで」
なんて。
簡単に教授にのせられた自分の行動をまさかあれほど後悔するなんて。
いやいやその前に。
沸々と滲み出ていた教授の怒りにもこの時気付けていれば。
とか。
きっと後悔したところであたしが教授になんて敵うわけがないんだけど。