第5章 暗殺者の上手な別れ方【前編】
雨音くんが、時雨に特別な感情を抱いてるのは知ってる。
時雨を何かから守ってることも。
組織の存在、かと思ってたけど。
雨音くん自身、その『何か』がわかってなかったらしいな。
だから余計に、怯えていたのか。
「よく、わかりました」
「…時雨には今の話」
「わかってます」
時雨の白紙の過去。
調べても調べても全く見つからない時雨の過去。
そこに答えはありそうですが。
たぶんその答えは彼女が知ってる。
『消された記憶』に、答えがあるはずなのに。
目の前にあるはずの答えが出せない、ってのも、モヤモヤしてならない。
彼女も、幼い時雨も。
同じように記憶を『消された』のなら。
組織からは、やっぱり逃げられそうにはないな。
「教授?」
「時雨の様子、見てきます。怒らせちゃったので」
「…ああ」
「雨音くんも、今日は泊まっていきますか?」
「いや、でも」
「遠慮せずに大丈夫ですよ。少し寝るといい」
「…………なら、少しだけ」
「…………」
リビングのドアを閉めて。
時雨のいるだろう寝室へと、足を向けた。