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暗殺者の愛で方壊し方

第5章 暗殺者の上手な別れ方【前編】




カタン、て。
ドアの向こうで音がした。
うつらうつらしてた意識が、少しだけ戻ってきて。
寝室の、ドアの開く音が後ろから聞こえた。



「起きてます?」


「ん…、寝てる」


後ろから腕が、すっぽりとあたしを抱きしめて。
髪を横に流して晒された首筋に、教授の唇が触れた。




「寝てるの」



ぷく、と膨れて。
枕へと顔を沈めれば。
頸や肩、腕、と教授の唇があたしを目一杯甘やかす。



「なら起きて、時雨」
「嫌」
「拗ねてます?」


くすくすと笑う甘い笑い声に、カァ、と体温が上昇。
なんでこの人はいつもこんなに余裕なんだろう。
あたしばっかり振り回されて。
バカみたい。


「時雨」


「寝てるの」



優しく、教授の掌が頭を撫でて。
後頭部にキスが落とされた。


「どうしたら機嫌直してくれますか?」



ほら。
いつだってこの人はあたしを幼子のように扱う。
まるで子供をあやすように、髪の毛を解くみたいな触れ方をして。
ひとり拗ねてるあたしが馬鹿みたいに。



「ねぇ時雨」


「…………」



甘い声。
優しい声。


「好きです時雨。時雨だけ」


わかってる。
そんなの疑いようもないくらいわかってる。


「…なら」


ほくろなんかどうでもいい。
そんなことで拗ねてるわけじゃない。
怒るわけない。
ただ教授が雨音と話したがってたから。
わざとあんなこと言ってあたしを怒らせるから。
乗っかっただけ。
そんなの教授にだってわかってるはずなのに。
不機嫌な原因がなんなのか、わかってるはずなのに。
それでもまだこの話題で終わらせようとするなら。


「…………他の子なんか、見ないで」


ヤキモチ妬いて拗ねたことにしても、いいよ。
教授がそうしたいなら。
いいよ。


「見た覚え、ありません」
「これからも、だよ」
「ああそれなら…もちろん、はい」



モゾモゾと体を動かして、正面から教授の首へと両手を伸ばす。


「雨音くんも、女性もいるので声は抑えてくださいね」
「抑えさせる気なんか、ないくせに」
「ああ、バレてました?」
「…………キスで、塞いでてよ」

「そんな殺し文句、どこで覚えて来るんです?」


にこりと目を細めて。
獣みたいな雄の目が、目の前で怪しく、揺れた。

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