第5章 暗殺者の上手な別れ方【前編】
あの施設は、親に捨てられた子供たちの家。
当然みんな、不安と恐怖で暗い目をしてた。
だけどその中でもダントツ、時雨は違った。
10歳ですでに今みたいな綺麗な整った顔立ちしてたし、綺麗な金色の髪。
ものおじしない、真っ直ぐに前を見る視線。
幼心に、惹かれたのを覚えてる。
あの施設での暮らしはほんとに酷くて。
まともに人間扱いなんてされなくて。
毒やら薬やら、何度も何度も時雨を殺しかけた。
弱っていく時雨を見て。
守るって決めた。
俺が時雨を守るって。
施設で産まれた俺にとって、母親だけが唯一の救いだったけど、時雨にはいない存在。
母親は俺だけのもので、他の子供たちの前に出ることすらなかった。
寒くて狭い部屋で震えながら寝る間も、俺だけが母親の腕の中でぬくぬくと育ってきた。
母親が、亡くなるまでは。
母親が死んで、生活は一変。
拠り所は、時雨だけだった。
『大丈夫雨音。大丈夫、苦しいね。痛いね。大丈夫、すぐ慣れるよ』
毒で麻痺するからだ。
霞む視界。
時雨がずっと、側にいてくれた。
守る、って決めた。
ちゃんと俺が、守るって。
『雨音、時雨を助けてあげて。あの子は、雨音のお姉さんだから。守って雨音。雨音のお姉さんを、助けて』
母親が亡くなる前に残した言葉。
『雨音の前に、双子の女の子、産んでるの。探して』
"助けて"
確かに母親は、そう言った。
ふたりの姉を、助けてって。
「…彼女は、時雨の双子の姉妹?」
「わかんない」
「けど、そう思ったからここにつれて来たんでしょう?」
「…………」
正直それも。
良くわからなくて。
ただ。
ほっとけなかった。
連れて来たのが良かったのか、悪かったのか。
それすらもわからない。
“助けて"
母親の言葉がほんとなら、時雨も、もしかしたら危ないんじゃないかって。
だから。
"助けて"欲しかった。
こいつに。