第5章 暗殺者の上手な別れ方【前編】
いつかは話さなきゃいけないのはわかってた。
いつまでも隠し通せるわけないって。
医療記録でもなんでも、こいつなら絶対調べがつくはずだから。
「知らないフリなんてしなくていーよ。どーせ調べはついてんだろ」
「…知ってましたか」
「あんたが素性もしれない俺を時雨の側に置いとくわけねーし。いくら時雨と昔馴染みだとしても」
「さすが雨音くん、時雨よりはお利口さんですね」
雰囲気も。
やんわりとした物腰も。
その、作り物みたいな笑顔も。
もとのこいつに戻ってる。
だけど。
張り詰めた空気はそのままだ。
こいつのまわりだけ、空気が違う。
「時雨とキミの母親の医療記録には、改竄されたあとがありました。正確には時雨の、ですが。時雨の出生記録は破棄されていますよね?」
「そこまで知ってて今の今まで黙ってたとか、あんたほんとこえーよな。」
「褒め言葉として、もらっておきます」
「あんたがどこまで調べたかは知んねーけど、時雨とは血の繋がりなんてないから。残念だったな」
同じ親から産まれたことは調べついてんなら、どうせ姉弟なら安心、とか思って側に置いといたんだろーけど。
「…………」
こいつ。
知ってた?
この反応、血の繋がりなんてないこと、知ってたんだ。
「時雨は、どこまで知ってるんです?」
「なんも」
「そうですか」
時雨は。
俺とはあの施設で、あの組織の中で出会っただけの他人だと、今でも疑ってないはずだから。
「代理母、ですね?」
「今でゆーところの、そんなもん」
ムカつく。
やっぱこいつ、全部調べてやがったんだ。
俺だって調べんの、まじで苦労したってのに。
第一時雨の出生記録や医療記録なんて存在しない。
時雨は、この世に産まれた記録さえないんだから。
こいつの情報網、どうなってんだよまじで。
ため息ひとつ、吐き出して。
一呼吸。
ソファーへと移動した。
「…………双子を、出産したって聞いてる」
「え」
「俺が時雨にあったのはまだ、俺が5歳か6歳ん時。そん時すでに時雨は記憶障害で何にも覚えてなかったよ」