第5章 暗殺者の上手な別れ方【前編】
ガツン、と一発。
時雨は教授の背中へと蹴りをひと突き。
怒り心頭で。
リビングから消えて行った。
「…さてと」
「…………」
ああ、こいつ。
わざと。
わざとあんなこと言って、時雨追い出したな。
顔つきが、変わった。
「雨音くんが何故時雨のほくろを知っていたのかは今日のところは置いときます」
ギク。
やべぇ。
地雷踏んだかな、俺。
「キミが警察になんて頼るつもりもないことくらいわかっています。…同じ理由でしょう?私と。時雨のほくろは、非常に珍しい形ですからね。同じ場所、同じ形。偶然とは私にも思えません」
「……」
右足太腿の、内側。
時雨には三角に並んだほくろがみっつ、ある。
そしてそれはあの女性にも。
どことなく、時雨に似てるあの女性。
偶然とは、思えなかった。
血だらけのワンピースに。
記憶障害。
まさか記憶を消されたあとだなんて思わなかったけど。
「雨音くん」
「…………」
いつになく真剣な声色に。
身体が拒絶反応を、起こす。
危険信号。
ああやっぱ。
連れて帰って来るんじゃなかった。
偶然なんてあるわけないのに。
世の中全て、意味がある。
意味のない偶然なんて、あるわけないのだ。
「キミ、時雨の過去についてご存知ですよね?」
そして。
隠し通せる秘密もまた。
あるわけない。
隠したいなら方法はひとつ。
秘密から、出来るだけ遠くに。
離れることだ。